山口地方裁判所徳山支部 昭和42年(ワ)128号 判決 1968年5月08日
原告
田中キミ子
ほか五名
被告
宮崎義夫
ほか一名
主文
被告らは各自原告田中キミ子に対し金一、〇三九、二五一円七三銭、原告田中マキノに対し一一、一六六円六七銭、原告田中恒男、田中勲、田中敏子および田中昌子に対し、各四六五、二〇九円二〇銭を支払え。
原告らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その三を原告らの連帯負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
此の判決は被告らに対しそれぞれ、原告田中キミ子において金三〇〇、〇〇〇円、原告田中恒男、田中勲、田中敏子および田中昌子において各自金一五〇、〇〇〇円の担保をたてたときは、その被告に対し原告各自の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告両名は各目原告キミ子に対して金一、八九七、五四二円、原告恒男、勲、敏子および昌子に対してそれぞれ金九九八、七七一円、原告マキノに対して金三〇〇、〇〇〇円を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
「一、被告宮崎義夫は被告マルサ運輸株式会社所有の自動三輪車を運転し、昭和四一年四月一六日午前八時頃山口県徳山市大字戸田字戸田山水野門治方前付近国道上において、防府市方面に向い時速五〇粁位で進行中、前方を同方向に進行中の普通乗用車を追越そうとしたが、その時自車の積荷が荷崩れして車体の左右にはみ出して居り、かつ前方から訴外田中忠雄運転の原動機付自転車が対向して来ていたのであるから、此のような場合自動車運転者としては追越を見合せもつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにかゝわらずこれを怠り、漫然対向車両が避けてくれるものと軽信して追越をした過失により、自車の積荷の建築用パイプの車体からはみ出した部分を右訴外人の自転車に接触させ、同訴外人を自転車の安定を失わせて同被告の車両の後方を進行していた普通乗用者に衝突させて路上に転倒させ、よつて同訴外人に対し頭部外傷頭蓋骨骨折の傷害を与え、そのため同訴外人を翌一七日死亡するに至らせた。
二、被告マルサ運輸株式会社は被告宮崎義夫運転の自動車の運行供用者である。
三、前記訴外人は右交通事故により次のような損害を蒙つた。
(一) 同訴外人は大正六年八月一九日生で死亡当時四八才であつた。同人は訴外日本国有鉄道防府駅に勤務し、昭和四〇年における給料賞与等の支給額は合計七三八、六八四円であつた。そして満五五才にて退職するものとして、事故の翌日である昭和四一年四月一七日から昭和四七年八月一九日まで六年四月勤務し得られ、その間の収入の増加率を最低五パーセントと見積り、その基準収入を前記昭和四〇年の金額とすると初年度七七五、六一八円、二年度八一四、三九八円、三年度八五五、一一七円、四年度八九七、八七二円、五年度九四二、七六五円、六年度九八九、九〇三円、七年度の四ケ月分は六年度の三分の一として三二九、九六七円合計五、六〇五円六四〇円となり、この金額を国鉄から給与として受けることゝなる。
(二) 国鉄退職後においても少くとも六五才までの一〇年間は稼働可能であり、その間の収入を最低に見積つても平均月額二〇、〇〇〇円を下ることはないので、一〇年間の収入は月額二〇、〇〇〇円として合計二、四〇〇、〇〇〇円である。
(三) 右合計八、〇〇五、六四〇円から同訴外人の生活費を平均月額一〇、〇〇〇円と見積り、一六年四月分は一、九六〇、〇〇〇円であるので、これを差引き六、〇四五、六四〇円が同訴外人の得べかりし利益の喪失額である。
(四) これからホフマン式計算法により法定利率の年五分の割合の中間利息を控除すれば、現価額は五、二〇五、六三〇円となる。
四、原告キミ子は右訴外人の妻であり、原告恒男、勲、敏子および昌子は子であり、法定相続分に従い同訴外人を相続した。又原告マキノは同訴外人の母である。
五、右訴外人は働き盛りの年令にあり一家の支柱であつた。此の支柱を失つた原告らの精神的苦痛は甚大であるが、慰藉料として原告キミ子は五〇〇、〇〇〇円、その他の被告らは各三〇〇、〇〇〇円を請求する。
六、原告らは自動車損害賠償保障法による保険金として一、〇〇〇、〇〇〇円、被告宮崎義夫から香典として三、〇〇〇円、被告マルサ運輸株式会社から香典として一〇、〇〇〇円の合計一、〇一三、〇〇〇円を受領しているので、これを被害弁償内入があつたものとする。これを得べかりし利益の喪失額から差引くと、四、一九二、六三〇円となる。
七、従つて右訴外人の妻子である原告らが相続した損害賠償債権額は、原告キミ子が一、三九七、五四二円、原告恒男、勲、敏子および昌子が各六九八、七七一円となる。これに慰藉料額を加え、よつて原告らは被告らに対し、各自請求の趣旨記載の金額を支払うよう求めるものである。」
と述べ、立証として、甲第一号証から第八号証までを提出し、原告由中恒男および田中キミ子各本人尋問の結果を援用すると述べた。
被告宮崎義夫および被告マルサ運輸株式会社代表者は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、原告の請求の原因に対する答弁として、被告宮崎義夫は、
「原告主張の損害額を争い、その余の原告主張事実を認める」と述べ、被告マルサ運転株式会社代表者は、
「被告宮崎義夫に一方的に過失ありとする点を否認し、その余の原告主張事実を認める。」
と述べ、抗弁として、被告宮崎義夫および被告マルサ運輸株式会社代表者は、
「訴外田中忠雄にも事故当時センターライン付近を走つており、キープレフトを守つていない過失があり、此の過失を損害賠償額の算定に当つて斟酌されるべきである。」
と述べた。
〔証拠関係略〕
理由
被告宮崎義夫が原告主張のような交通事故を起し、そのため訴外田中忠雄が死亡したことについては、当事者間に争いがない。
〔証拠略〕によると右交通事故が原告主張どおり被告宮崎義夫の過失によるものであることを認めることができ、此の認定を覆えすに足る証拠はない。
そして被告マルサ運輸株式会社が右被告宮崎義夫運転の自動三輪車の運行供用者であることについても、当事者間に争いがない。
それ故被告らはいずれも右交通事故につき損害賠償義務を負うものである。
そこで訴外田中忠雄の損害額について考えてみるのに、〔証拠略〕によると右訴外人は大正六年八月一九日生れであつて、死亡当時四八才七ケ月であつたことが認められる。
(一) 〔証拠略〕によると、右訴外人は当時日本国有鉄道防府駅に勤務していたことおよび昭和四〇年における給与の総額が七三八、六八四円であつたことが認められ、此の認定を覆えすに足る証拠はない。そして国鉄職員の定年が満五五才であることおよび給与総額が年に五パーセント以上増加することは公知の事実というべきである。それ故その基準収入を昭和四〇年度の金額とすると同訴外人の定年までの予想収入額は原告主張どおり合計五、六〇五、六四〇円となる。
(二) そして原告田中キミ子本人尋問の結果によると、同訴外人は健康であつて家庭においても田七畝位畠二反位を耕作しており、密柑園の経営にも着手しており、国鉄退職後も一〇年間位は稼働可能であり、月額二〇、〇〇〇円位の収入を挙げ得たであろうことが認められ、一〇年間の予想収入額は合計二、四〇〇、〇〇〇円となる。
(三) 右訴外人は、前記尋問の結果によると一ケ月の生活費として一五、〇〇〇円を要していたことが認められ、此の一六年四月分は二、九四〇、〇〇〇円となる。これを右予想収入額の合計から差引くと五、〇六五、六四〇円となり、これが同訴外人の得べかりし利益である。
(四) そして此の金額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除すると、四、五四〇、四二五円三三銭となり、これが同訴外人の得べかりし利益の喪失による損害額である。
次に原告らの主張の慰藉料請求につき考えてみるのに、原告キミ子および恒男各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、原告の主張は相当であると認められ、此の認定を覆するに足る証拠はない。よつて原告キミ子の慰藉料は五〇〇、〇〇〇円、その他の原告の慰藉料は各三〇〇、〇〇〇円である。
被告主張の過失相殺の抗弁について考えてみるのに、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証から第八号証までによると、訴外田中忠雄にもキープレフトの原則を守らなかつた過失の存することを認めることが出来、此の認定を覆すに足る証拠はない。よつて同訴外人および原告らの損害額からその四割を減ずべきである。
そうすると、原告キミ子が右訴外人の妻であり、原告恒男、勲、敏子および昌子が子であつて、いずれも法定相続分に従つて相続したことについては当事者間に争いがないから、結局原告らの損害額は、原告キミ子が、一、二〇八、〇八五円六銭、原告マキノが一八〇、〇〇〇円、その他の原告が各六三四、〇四二円五三銭である。
そして原告らが被告らから既に一、〇一三、〇〇〇円を受領していることについては当事者間に争いがないので、これを民法第四二七条により原告らに平等に分割すると、原告らは一六八、八三三円三三銭宛の弁済を受けたことゝなる。それ故原告らの債権額は、原告キミ子が一、〇三九、二五一円七三銭、原告マキノが一一、一六六円六七銭、その他の原告が各自四六五、二〇九円二〇銭となり、原告らの請求は右金額の範囲で理由があり、その余は理由がない。
よつて原告の請求を右理由のある範囲で認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 武波保男)